バリアン
「バリアン」とは、呪術師、呪医師のことで、治療・占い・祈祷などに携わる人である。中にはブラックマジック、ホワイトマジックを操るシャーマンもいると聞く。例えば、恨みを込めた魚をそっと池に放ち、その家を不幸にするブラックマジックの使い手もいるという話しも聞いた。
バリに行き始めた頃、面白半分にウブド村の郊外に住むの女性のバリアンを尋ねたことがある。身重の彼女は、体のあちこちを揉み、その人の悪いところから様々な物を取り出す。
私の頭からは「黄色の繭」、背中から「曲がった真鍮片」。妻の首から「錆びた釘」、みぞおちから「錆びたスプリング」を取り出した。錆びた物が出るのは長年煩っているということらしい。物を出して示すとは分かりやすい!出てきた物をチラッ見せた後、目薬をさされる。それがとてつもなくしみて、ワアワア言っているうちに摘出物はお払いのために祭壇の奥に上げられてしまう。
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スナリ村の可愛いTシャツを着たバリアンのチョコルドさんは、日本の旅番組でタレントさんを診た後、急に観光客が押し寄せ「いったい日本で何が起きてんだね?」と不思議がる。この方のマッサージは指先がポイントにピタッと入り、雷に打たれたように痺れる。少々痛いが施術後はとても気持ちが良い。
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アバビ村で結婚式があり、「雨雲の操縦士」の異名を持つバリアンであるパ・サヴァが呼ばれた。彼は式が行われている間、一人離れたところで何時間も気象の安定を祈り続けていた。セレモニーがあると、それを妬む者が雨を降らせようとバリアンに頼むのだそうだ。それと対抗するのもバリアンの仕事。時々飲むお酒はパワーアップのためだって(酩想?)。
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2018年の夏、アグン山の麓の村へ泊まった。いつも訪ねるお婆さん宅で最新作を見せて頂いた後、帰り際に私の病気のことを告げた。私が詳しく話す前に「肺を患っているね」とピタリ言い当て、祈るように私の胸に手当てた。彼女が昔、村のバリアンだったことはその時初めて知った。
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